カナダ・ケベック
2006年5月15日-18日に行なわれたIUFRO(国際森林研究機関連合 )の研究集会 "Natural disturbance-based Silviculture--Managing for complexity"の参加日誌です。
前日深夜、ケベック州ルエンノランダに到着。時差ボケであまり眠れなかった。 成田から乗り継ぎ2回(トロント、モントリオール)、所要17時間に加えて、 預け荷物が行方不明になって疲れが倍加した(...荷物は半日遅れでホテルに届いた)。 日本からの参加者は3名。山梨県森林総研の長池さんとは成田からモントリオールまで同じ便 (飛行機が取れずモントリオール泊)、静岡大の水永さんとはモントリオール空港でお会いした。 水永さんは、この研究集会の次回日本開催(2008年11月)をオルガナイズされることになっていて、 その進捗状況を伺いながら来た。
ルエンノランダはケベック州の北西部にあり、ケベック大学のAbitibi-Temiscamingue校があることから、 開催地となっている。人口4.5万人という小さな街。私が住んでいる名寄市やや大きいかなという程度である。 英語も通じるが、朝つけてみたテレビのチャンネルはすべてフランス語だった。
5月15日 7:30、迎えのくるまで会場へ。昨夜の空港からの移動もそうだが、大学院生がきめ細かく対応してくれている。 会場内のレストランで朝食後、開会。参加人数は120名だそうだ。前回の会議(2003年、フィンランド) で見知った人がたくさんいる。今回のオルガナイザーであるB. Harveyと、 このグループのリーダーであるK. O'Haraが一言ずつ。
最初の全体セッションには、D. Kneeshaw(University of Quebec, Montreal)が、 さっそうとサンダル履きで登場。当地の北方林域を対象に、施業の「テンプレート」としての 森林の時空間変動を概説。結論的には'Uneven management'が必要だという説得力のある話。 今回のテーマに沿って言うと、北方林では山火事が主要な攪乱要因なわけだが、 それに一番近い施業方法は「皆伐」になる。しかし、実際に山火事で激しく焼ける部分は限られており、 even-agedな構造は、uneven-agedの中に島状に点在するのみ(実際のところ、森林の2/3はuneven-aged)なのだという。 加えて、重要な攪乱要因として虫害と風倒による単木的なギャップ形成のレヴュー。 山火事も含めて、それぞれの頻度、サイズ、特徴、それに対する森林の反応が手際よくまとめられる。 質の高い研究群によって、まさに「テンプレート」が示されている感がある。 実際の施業への応用にあたっては、これらのばらつきを考慮すること(consider variability)の重要性が強調された。
午後の全体セッションは、前回のフィンランド会議をとりまとめていたS. Valkonen(Finnish Forest Research Institute)。 フィンランド南部のトウヒ林で、異齢林施業(UEFM)が実行可能かどうかを、さまざまな観点から検討。 プロジェクト研究からの結果紹介を中心に、シミュレーションモデル (MOTTI)を使った収益性評価や、 収穫時におけるオペレーションの問題なども含め、レヴュー的な報告。 総合的な結論としては、フィンランド南部において、UEFMは、非商業的に管理される森林であるならば望ましいが、 そうでなければ大面積に導入するのは現在では難しいだろうとの見解。 北欧諸国における既存の研究例では、unevenな林分構造を維持するという観点での成功率は約30%程度とのこと。 これは主として更新がうまくできるかどうかに左右されており、場所によっては有機物層の除去が不可欠であるようだ。 生物多様性への配慮(倒木や残存木の管理)は、同齢林施業でもおそらく同程度に可能だろうという。 非商業林分に加えて、保護地に隣接する林分などへ部分的に適用していくことを検討すべきだ、 という現実的なまとめになっていた。
一般セッションは会場がふたつに分かれるので、二者択一で会場を動く。 Y. Claveau(University of Quebec, Montreal)は、この研究集会のテーマ 'Natural disturbance-based'に正面から向き合う内容。「何をまねすればよいのか?」、 その選択のフレームワークを提示。要点としては、できる限り攪乱の特性を忠実に模倣するが、 影響を無視できそうなものは省き、実行が困難なものも取り扱わないという順応的なアプローチが示された。 カナダ東部における虫害(spruce budworm)を例に挙げて紹介。 森林の種組成、林分構造、CWD、土壌有機物層などの主要な森林特性(attributes)に影響を及ぼす攪乱の特性を、 強度、空間分布、再来間隔といったdescriptor(=模倣する内容)で示した。 模倣は、当然、事前の森林のタイプや状況によって変わりうることが強調された。
その他の発表でも、実際に生じる自然攪乱のレベルを忠実に(施業レベルで)模倣して、 変化を追跡するような研究発表が目立った。先進地においては、このような施業への志向が非常に高まっていることが感じられる。 一方で、過去に行なわれた施業をretrospectiveに評価する研究も多かった。 例えば、R. Deal(USDA Forest Service)は、アラスカ南部で過去に無計画で行なわれた抜き伐りが、 結果的に、天然林に近い構造と多様性を回復につながったことを報告し、 この地域での異齢林施業の有効性を明らかにした。
あと、研究そのものではないが、フィンランドでの研究のイントロダクションでは、 植生構造・組成の多様化を進めるための施業が実際に広く行なわれつつある(1.6万haを施工中だそうだ) ことが紹介されていた。研究自体は、ギャップの大きさ/地表攪乱の有無の効果をシンプルに調べるものだったが、 これが現在進行中の施業に活かされていく、という「動きながら調べる」アプローチに感心する。
16:30からポスターセッション。発表件数は23件。若手・大学院生が多いという印象。 水永さんは次回開催(2008年・静岡)のため、空きスペースに日本の観光ポスターを貼っておられる。 私自身は、北海道の択伐林における稚幼樹の分布についてのポスターを掲示。絶え間なく、という程でもないが、 多くの人が聞きにきてくれた。ササについての質問が多い。持ってきた別刷りの売れ行きがよい。嬉しい。
その後18:00から夕食会。隣に座ったのはフィンランドの若手研究者H. Surakka。 林業工学の専門家なのでやや分野が異なるが、ちょうど互いにポスター発表を聞いたところだったので、 いろいろ議論と雑談ができた。舞台ではさまざまなパフォーマンス。
21:30、ホテルへ戻った。
5月16日 今日は池沿いの公園の歩道を歩いて会場へ。樹木がちょうど開葉を迎えていてすがすがしい。 7:40、カナダ・ブリティッシュコロンビアの人たちと朝食。
D. Coates(British Columbia Forest Service)の全体セッションは、 'Silvicultural strategies for managing complex structured forests'と題されたもの。 今回の会議を主催しているカナダの研究者コミュニティの中心的な主張を含んでいたように思われた。 まず、これまで育林上の意思決定に用いられてきた研究のアプローチは「農業モデル」であったとする。 それは、主として林分スケールで、ある種の実験計画に基づいて、施業の効果を「検証・比較」し、 'best treatment'を探すスタイルであった。それは、木の定着や成長を高めるためには有効かもしれないが、 複雑な構造の管理には役立たないと彼は言う。というのは、「検証・比較」が、通常個体レベルではなく、 林分レベルでの平均値をもって行なわれるからである。平均値に基づく異齢林施業は、 単に'uniform in a different way'に過ぎず、むしろ保育施業によって、 さまざまな構造が林分内につくられることが望ましい。そして、そのためには、 施業に対する反応の傾度(グラディエント)やトレードオフを生態的プロセスに基づいて きちんと記述する研究アプローチ、すなわち個体ベースモデルを意識したデータ収集が重要であることを強調した。
一般セッションのC. Messier(University of Quebec, Montreal)の講演は、 連名者でもあるCoatesの続編のようであった。 表題は"Managing for complexity: lessons to be learned from ecology"。 まずは、過去から現在まで、林業に大きな影響を与えた生態学的理論が列挙される。 ニッチ、サクセッション、エコシステム...。学問としての生態学は、 しかし、林学とは対極的な位置にあると彼は言う。それは、林学が基本的には「問題解決型」の学問であり、 「生産を最適化するために自然を単純化する」指向を持っている(いた)のに対して、 生態学は「自然の複雑さ」を理論化するものだからである。今後の林学(林業)は、 複雑さを考慮するためにもっと生態学から学ぶべきだと強く主張する。具体的に重要な課題として、 空間的な概念、スケールの問題(個体レベル、景観レベル)、そして統計学的なデータ解析としてのモデル選択、多変量解析...。 講演の最後では、ひとつの価値観(生産)にとらわれた林業はもはやありえないことのカリカチュアとして、 「生物多様性『アリが一番大切』システム」、「自然撹乱ベース『どこでも3階層』システム」などなど、 風刺に富んだ「あり得る」施業の一覧をスクリーンいっぱいに展開。
全体に、北方林を対象とした発表が目立ったが、そのあたりを意識してか、 全体セッションでは緯度の低い地域の発表が2件。J. Guldin(USDA Forest Service)は、 アーカンソー州のマツ林における69年にわたる異齢林施業の結果。 土地柄(?)を反映してか成長量の議論が中心。北方林の話を聞きなれた耳には、 成長量の圧倒的な大きさが別世界の話のように聞こえる。 一方、スロヴェニアのJ. Diaci(University of Ljubljana)は、ブナ-モミ林を中心に、 中部ヨーロッパにおける異齢林施業の紹介。中緯度では山火事の重要性が低く、 一般にギャップ形成プロセスが重要であることが示されるが、そもそも残っている老齢林が少なく、 多くの森林が長い人為的な利用のもとで管理されてきたことが、 Natural disturbance-based managementとしてまとめることを難しくしているように感じられた。 これは日本の多くの地域でも同じかもしれない。
北米で近年広く行われているプロジェクト型の施業試験の報告もいくつか。 当地のSAFEプロジェクトについて聞くのを楽しみにしていたが (これは2003年フィンランドで、今回の会議のチェアであるB. Harveyが紹介していた)、 まだ全体の結果が出る段階ではないためか、各論的な内容だけだったのは寂しかった。 そういえば、その手のプロジェクト研究の総本家的な存在である DEMOの話しも全然なかったし...。
昼食では、有井健さん(University of Toronto)にお話しを伺うことができた。 有井さんはポスドクとして昨年から SORTIEの開発に携わっておられる。 私は、コードが公開されているこのプログラムを北海道の択伐データに適用してみたいと思っていたので、 その情報収集は今回の大きな課題であった。日本語で話を聞くことができるとは、本当に幸運である。 モデリングに対する考え方など、基本的な情報をいろいろと教えていただく。 その後のポスターセッションの時間にも、私の話しを聞いてもらい、データを前に具体的なアイデアも伺うことができた。収穫。
17:30、ポスターセッションの終了後、いったんホテルに戻り、その後慌しく18:00、エクスカーションに出発。今回の期間中エクスカーションは、 4箇所から事前に選ぶ形になっていて、(唯一)前夜出発のこのエクスカーションに参加したのは約20人。 日本人はひとりで、他にあまり知っている人も参加していない。参加者のうちリーダー格はNyland先生。
立派なバスで出発。カナダはさすがに広大である。ときどきモレンの起伏がある以外はほとんど平坦な道を一路南下する。 遠路で止まる時間がないからなのか、夕飯は車中で。しかし、これが手間隙のかかったものだった。 飲み物、野菜、チーズ、肉、ピザなど、質や産地に凝った食材が、アナウンスに続いて大学院生によって丁重に運ばれてくる。 こういうエクスカーションの場合、地元院生の近くに席取りできるといろいろ話しを聞きやすくて都合がよい。 ただ、席は近かったのだが、彼らは給仕に忙しくて話しをするヒマがない。
最初3時間といっていたのだが、宿泊場所であるCanadian Ecology Centerに着いたのは、結局23:30。 5時間以上かかったことになる(あとで地図を見ると距離は300km程度だった)。 2人用のキャビンに宿泊。シャワーや高速インターネット完備のたいへん立派な施設で、 平日だというのにくるまがたくさん止まっている。2人ずつ割り振られた結果、 僕はひとりあぶれてバスの運転手さんと同室。ただ、この運転手さんはたいへんフレンドリーな人で、 いろいろカナダの話しを聞かせてもらった。疲れた。眠い。
5月17日 一夜明けて17日は7:00から朝食。天気予報が悪くて心配していたのだが、快晴である。 Ecology Centerは何も見ずに、急ぎ出発。今日の見学予定ポイントは全部で5箇所。くるまで走る時間が長そうだ。 午前中のMattawaは、オンタリオ州にある。ケベック州とは川をひとつ隔てただけだが、 店の看板が一斉に英語→フランス語に変わる。国境である。パスポートを用意しろ、とアナウンス (この手のジョークは期間中何回か聞いた)。ついでながら、今回はフランス系の参加者が多く、 エクスカーションでも議論がいつの間にかフランス語...ということも多かった。
ケベック州側からオンタリオ州側の森林を眺める
森林は国境と関係ないが、ここまで南下すると、広葉樹の多い林相が目立つ。 いわゆる北方広葉樹林Northern Hardwoodsである。車窓から目立つのは、 カエデ、ヤマナラシ、カンバ類など(北限に近いせいでブナは少ないそうだ)。 針葉樹では、トウヒ、ツガ、マツなど。植林地も多い。 この地域は比較的歴史が古く、林業も盛んなのだそうだ。
Site1: まずはオンタリオ州の森林ネットワーク研究 (NEBIE)のサイト。 企業・研究所・民間の共同で、州内の代表的な6植生タイプの森林を対象に、 施業の影響(保全・経済的価値の両方)を評価するプログラムである。 施業は、5段階のオプションが用意され、それぞれの頭文字をとって 'NEBIE'(Natural-disturbance, Extensive, Basic, Intensive, Elite:次第に生産重視)になっている。 まずは(この地域では)伝統的な手法であるsingle-tree selection施業地。 教科書に描かれるように、小ギャップに対応して林床にサトウカエデ(Acer saccharum)が更新している。 この施業を続けるとサトウカエデの一人勝ちになるので、もう少し別の樹種が生育できるよう別の方法を考えるというのが、 目標になっている。ターゲットは中耐陰性種であるキカンバ(Betula alleghaniensis) 。 具体的には、疎開を大きくし、地表攪乱も加えることによってキカンバの更新を図ることが試みられていた。
サトウカエデの林冠木。キカンバの稚樹
新潟でやっていた人工ギャップの話に近いな、と思う。 新潟の場合はsingle-tree selectionをしているわけではなく、 coppiceや造林地が放棄されてオープンなハビタットが減少しているというのが背景であるわけだが。 なお、ここでは非耐陰性種のことは考慮されていない。これは地域全体を考えると、 彼らのハビタットは十分にあるのでここで優占させる必要はない、という判断によるそうだ
林冠疎開+地表処理を行なっているところ。
地域全体で見ると、シェルターウッド、セレクション、皆伐がそれぞれ1/3ずつとのこと。 それらを決める意思決定のダイアグラムが作られている。 現況の蓄積(胸高断面積合計:質を考慮)と種組成から決められる仕組み。 実際に、選木等を行なうスタッフは十分なトレーニングを重ね、テストも行なっているという説明。
Site2: 次に見たのはナラ(Quercus rubra)の調査サイト。 先ほどと比べて尾根上の乾燥した立地である。 調査の目的は、先ほどのキカンバをナラに置き換えたものと考えてよい。しかしこちらのほうが技術的に難しく、 まだ実験的な段階にあるようだ。 傘伐のほかに、群状択伐(0.1haと0.05ha)を行ない、天然更新や植栽稚樹を追跡している。 サトウカエデは萌芽力もあるしギャップにもすばやく反応するので、いずれのサイトでも優占していた。 結局、ナラを仕立てるのであれば下刈りが必要ということのようである。
ナラは短伐期の萌芽更新であれば成功率が高いが、長伐期で考えるとどこでも更新の「壁」に当たるように思える。 雨龍研究林にもミズナラの優占する天然林があるが、私にはその更新のメカニズムが全然理解できていない。 そんなことを思いおこしながら見る。
切株。 サトウカエデが盛んに萌芽している。
まだ小さいナラの実生。ナラの更新のためにつくられた大きなギャップ。
Site3: 午後は、ケベック側に戻って大きく移動。豪華なランチボックスを手に、 今度はMalakisis地区のサイトに移動。明日のケーススタディ・セッションの対象地がここで、 多くのステークホルダーが関わったプロジェクト研究が行なわれているようだ。 1960-70年ころから、択伐が行なわれており、地元にオフィスを構える、カナダを代表する木材会社 Tembekも大いに関わっている。 プロジェクトの名簿を見るとMessierも載っているが、今日は来ていない。Nyland先生がいろいろ説明。
まず見たのは典型的な施業が続けられている箇所。最近では2001年に伐採されたとのこと。 示されたデータは2001年と現在の比較だけだったが、その期間だけみてもサトウカエデの優先度が高まっている。 サトウカエデの「活力ある木」の見分け方の説明。樹皮の割れでわかる、のだそうで、 「よい」と判断された木のコア表層を取ってみせてくれる。年2mm程の良好な成長が示されていた。 実際の林業的な取り扱いが議論されるが、site specificな背景がよく見えないのでフォローできない。 ときどきフランス語に変わってしまうし。
サトウカエデの樹皮。単木択伐が行なわれた林分
あと、関連するモデリングの話し。モデリングのセッションには出られなかったのだが、 そこでも紹介されたCOHRTEという個体ベースモデルの紹介。 これは、生態学的プロセスに詳細に依拠する SORTIEなどと比較すると、ずっと林業の現場に即した作りになっており、 個体の'vigor'や'grade'が評価される。vigorは上にも出てきた、木の「活力」で、 vigorかnon-vigorに分類される。個体の成長は競争指数(周囲の混み合い度を反映)によって決まるが、 vigorとnon-vigorでは異なる成長が予測される。同じように被圧されていても成長のよい木と悪い木がある、 という経験に基づくようだ。成長が決まると、サイズと成長の関数で死亡率が決まる。 と同時に、vigorおよびgradeクラスが決まる。gradeのほうはさらに林業的で、材質(3クラス)をあらわす。 これも経験的な推移確率に基づいている(成長が悪いとgradeも低下する)。
有井さんによれば、SORTIEもやがては林業的な価値観を含んだものにしていきたいとのこと。
Site4: 時間の都合で予定されていた1箇所が割愛されて、最後の見学地。 ここはCROI(何の略か不明。フランス語?)という名のDiameter limitation cut、 すなわち「ある直径以上の木はすべて伐る」施業が行なわれている。 この方法が採用される理由は「林相改良」のため。Malaksis地域は全体には成長の遅い木が多く、 先ほど見たような「活力のある木」が少ない林分で、このような方法が用いられるとのこと。 成長が遅い林でも更新木はたくさんあるので、それらの成長を促すように、 上層木(直径39cm以上)は形質等に関わらずすべて伐採する。更新木のほうも、すべて残すわけではなく、 ある程度有用なもの以外は伐ってしまうらしい。伐採周期としては50年程度を目標にするとのこと。 これは一応、'uneven-aged management'ではあろうが、'Natural disturbance based'とはかなり遠く、 林業的な目的観が優先されている。が、それでよいのかもしれない。 ここでは、景観レベルでは午前に見たような保全を考慮した施業も行なわれているし、 「直径39cm以上の木はすべて」との説明だったが、見ていると、実際には5-10本/haの上層木が残されている。 このような残存は、すでに「常識」として取り入れられているという感がある。
Diameter limitation cutの現場。施工地内に残された残存木
見学が終了し、帰途へ。帰りは途中の町Ville-Marieでフレンチ・フルコースの夕食。 1時間半の予定が大いに延びて3時間も店にいた。ホテルに戻ったのは23:00。くたくた。
5月18日 やや寝坊して8:00に会場。地元に近いオンタリオの人たちと朝食。
今朝の全体セッションには、R. Nyland(SUNY college of Environmental Science and Forestry)が登壇。 北方広葉樹林を題材にした話し。昨日も実際に現地を見ながらコメントしていたが、 北方広葉樹林の施業体系は相当以前からまとめられていたようだ。 古典的な研究、Eyre & Zillgitt(1953)の紹介。残存させるBAを18-21m2、 伐採周期を10-15年にすることで、持続的な最大収量が得られる、という彼らの結論は、 今日に至るまで正しかったといえるらしい。 Nylandの提案は、この残存BAと伐採周期の組み合わせをフレキシブルに調整してもよいだろうというもの。 具体的には、もう少し低いBA・長い伐採周期(例えば15m2、25年)を組み合わせることで、 密度・種組成の多様性が高められるということになる。昨日見たカンバはその例だったわけだ。
昨日も見ていて思ったが、北方広葉樹林の樹種たちの撹乱に対する反応はまことに教科書的でわかりやすい。 とくに、'easy to regenerate'のサトウカエデが優占種であり、かつ有用樹種であることが、 この系の施業の実行可能性を高めている。「制御しやすさ」は「施業の実行可能性」の重要な必要条件だと感じる。 ただし、北方広葉樹林で、この理想的な状況を撹乱するのはブナの存在のようだ。 材としては劣るらしく、また萌芽で増えるので厄介ものらしい。 Nylandの冗談めかした言い方だと「ブナは枯死木としてのみ有効だ」ということになる。
最後は、更新関係のセッションへ。メーン州の Penobscot研究林におけるUSDAの施業試験では、 50年を超えるモニタリングがなされているそうだ(この優れたデータは、他の発表でも使われていた)。 3つの伐採強度・周期の処理区(selectionシステム)が比較されていたが、ただ、 これだけだと、案外、データの深みが伝わらない、というか十分に活かせていない感じが否めない。 この点は、まさに2日目のCoatesの指摘と関係する。 それぞれの「処理」が持つばらつきを考慮するアプローチを併用できると、より長期データを生かせるのだと思う。
その他ではsite preparation、施肥を取り上げた発表など。こうした、いわば造林学的な内容は、 前回のフィンランドではかなり多かったが、今回はテーマに自然撹乱が謳われているせいか 明示的に取り上げた発表は少なかった。 Site preparationの話題は、北海道の掻き起し施業への示唆がいろいろあって興味深い。
水永さん、有井さんと昼食。
午後は1300からのはずだったが、アナウンスなしに遅れて1315から再開。 発表がすべて終了したので、のんびりムードになった感じ。 Case studyセッションの総括としてふたたびNylandが登壇。朝の話の続きとして、 土地の地位や林分の状況に応じたクラス分けまたはゾーニングが重要だと強調する。 ただ、林分レベルで多彩な異齢林施業が可能である北方広葉樹林であれば、 景観レベルの管理への示唆ではもう一歩踏み込んでもらいたかった、という印象も残った。
その後はビジネスミーティングなど。次回開催は2008年秋、日本、静岡。
水永さん、長池さんと短く打ち合わせ。お疲れ様でした。水永さんはポストエクスカーションへ。 長池さんは夜の飛行機で出発。有井さんはトロントへ車で戻る途中、別の会議に参加されるとのこと。
帰国便の都合で、ひとりルエンノランダに滞在。5月19日朝、モントリオールへ。 トロントへ飛んでもう1泊。5月20日の便で帰国した。