韓国済州島・漢拏山

2019年11月08日

国際シンポジウムで、韓国の済州島を訪れました。 

済州島(チェジュド)は面積1800km2、人口60万ほど、半島からは70km離れた離島です。韓国最南端で、北九州・四国・紀伊半島と同じくらいの緯度に位置しており、温暖です。ミカン栽培が盛ん。シンポジウムのテーマは「Korean fir(チョウセンシラベ:Abies koreana)の保全」です。この温暖な火山島の中心にある、標高1995mのハンラ山(漢拏山)で、チョウセンシラベは、標高1300m以上の高所に分布しています。しかし、この20年ほど、その衰退が著しく、今回は、その保全にむけた対策を話し合うため、済州特別自治道・世界遺産オフィスによって企画されました。参加者は、韓国の研究者・行政関係・保全関係者など50人くらい。海外からは、私のほか、ロシア、ポーランド、台湾の研究者が招かれていました。

11月8日 この日はエクスカーション。バスで、登山口に到着。とてもよい天気で、ラッキーです! 一般の登山客もたくさん来ている人気ルートのようです 。 

歩道はよく整備されています。広葉樹林の中を進みます。紅葉が、盛りは過ぎていたものの、美しく眺められました。 

ミズナラ。コナラとともに分布し、直径70-80cmくらいの木もありました。

アカシデ。イヌシデも多く見られました。

チョウセンハウチワカエデ? イロハモミジ、イタヤカエデも。

アワブキ。カナクギノキ。  

落葉してしまっていますが、他に、ハリギリ、ミズキ、エゴノキ、イヌエンジュ、ナナカマド、アズキナシなどなど。。。 

針葉樹では、イチイが目立ちました。

それとチョウセンゴヨウ。ときどき大きな個体が混交していました 

林床は、膝丈くらいのタンナザサ(Sasa quelpaertensis)に覆われていました。タンナ(耽羅)はこの島の昔の国名。 

急に開けて、眺望が変わりました。雲ひとつない快晴。チョウセンゴヨウが更新しています。以前は、この標高域には多くはなかったとのことです。

そして、代わって、チョウセンシラベが減少しているとの説明。奥の斜面は、20年前にはチョウセンシラベに密に覆われていたのだそうです。空中写真による判別を行った研究によれば、群落面積は、この10年ほどで、738→626ヘクタールに変化したとのこと。かなり大きな減少率です。2012年の台風の影響も指摘されていました。 

一部、枯死が集中している箇所。前日のシンポジウムでは、朝鮮半島の智異山などにある群落、あるいは興安モミ(Abies nephrolepis)も含めた分布や衰退の現状について多くの報告があり、衰退が深刻な状況にあることを学びました。ただ、ここでは、枯死木が全域に見えたわけではないので、減少している、という実感はあまり持てませんでした。この登山道と反対側(東側)の斜面ではより顕著だとのこと。 

漢拏山の山頂が見えてきました! 

振り返ると、海岸線と済州市の遠望。島中に点在するオルム(寄生火山)。 

タンナゲンカイツツジ(Rhododendron mucronulatum var. taquetii)。花の時期に来てみたいです。

標高1600m付近。この、山頂から西側の斜面には、衰退の少ない群落が見られました。木の高さは3-5m程度、直径は大きくて15cmほど。樹齢は80-90年だそうです。

ミズナラ、ダケカンバがときおり混交していました。ハンラ山は、紀伊半島の大台ケ原や四国の石鎚山・剣山よりも若干南にあるので、ダケカンバは、もしかすると南限の群落かも?しれません。 

稜線はほとんどササ地で、チョウセンシラベが、わずかにパッチ状に分布していました一方、群落は谷部を埋めるように広がっていました。乾燥への耐性が高くないことが伺えます。シンポジウムでは、地誌的な変化、温暖化などをキーワードに、チョウセンシラベの衰退原因について活発な議論がありました。上述のように台風の影響も指摘されていますが、その直接的な影響よりも、むしろ乾燥害や病害(枝枯病:Scleroderris cancerが見つかったとの報告)が重要なのかも、という印象を持ちました。 

稚樹は、林縁に分布しています。広範な地域で行った調査結果でも、それほど顕著に少なくはないとのこと。ただし、ササが密生しているためか、小さな実生は見かけることができませんでした。ノロジカによる食害もあるとのこと。  

そこで、長期モニタリングに基づいた保全活動のひとつとして、植栽も行われていました。8年生苗木を山麓で生産し、生分解性のコンテナを使い、1000本/年ほどのペースで進めているとのこと。以前、済州馬の放牧試験も行っていたそうです。ササを食べてくれることに期待しているわけですね。今回、済州馬 を見ることができなかったのは、残念。 

山頂までは行けませんでしたが、帰りは皆さんと会話をしながら、1日のエクスカーションを終えました。

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参鶏湯の夕食をたのしんだ後、あわただしかったのですが、私は、翌日の帰国便のため、夜、ソウルに向けて離島しました。以下は、朝の散策と、2日目夕方に連れて行っていただいた、済州市内の様子。 

神話の舞台、三姓穴。アカマツや、エノキ、クスノキ、イスノキ、ツブラジイに囲まれていました。 

民俗自然史博物館。火山、四季、済州馬、漁業、海女、ミカン栽培などなど。

牧官衙 。李氏朝鮮時代、済州牧(行政単位)の官庁あと。 

済州島のシンボル、トルハルバン(石のお爺さん)。すっかり済州島が好きになった3日間でした。次は、ツツジの季節、また、旅行者として、古代から現代史に至る日本との深いつながりを学びに来たいと思いました。暖かくもてなしていただいた皆さんに厚くお礼申し上げます。