宮城・斗蔵山
自生地が東北南部まで、という樹種は多くあります。カシ類もそのひとつ。宮城県角田市にある斗蔵山(標高250m)はウラジロガシの自生の北限として保護林に指定されています。藩政時代は、槍の柄に使われるカシが保護された「お留山」だったそうです。堅いカシ材が、槍に必須だったのでしょうか。
「カシ」はブナ科コナラ属の常緑樹種の総称。漢字で「樫」と書くように、材の堅さが際立っています。材の比重も0.9-1.0に達する重さです。
連休にはさまれた平日。角田の市街地からくるまで15分ほど。駐車場にはほかの車はいませんでした。案内板を見ると、歩道が整備されていました。程よい距離なので、それをたどることにします。
まずは参拝。石段の道をたどります。
参拝路の脇にはスギ。直径80cmほどの大径木もありました。
ヒノキ。自然分布は、福島県までとされています。
斗蔵寺と斗蔵 神社が祀られています。地元では「おとくらさん」と呼ばれるそうです。 坂上田村麻呂により創建され、空海が訪れたと伝えられる信仰の場。シキミ。
山頂付近からの眺望。スギとモミ。
山の北斜面はスギ人工林になっていました。
天然林が残る、南斜面につけられた歩道に入りました。尾根上ではヤマツツジが鮮やかでした。
アカマツ、コナラ。
道標はしっかりしています。逆順で「かしの道」へ。
尾根から斜面に移ると、常緑針葉樹と、常緑・落葉広葉樹が混交する見事な森になりました。比率は、見た目ですが2:4:4といったところ。
常緑針葉樹は、モミ。分布は岩手県まで。
直径1mを超える個体もありました。
常緑針葉樹はもう1種、カヤ。こちらは宮城県までの分布なので、やはり北限に近いと言えます 。小径木がほとんどでしたが、時折、直径30cm以上の個体も見かけました。
そして、この森の主役。常緑広葉樹の優占種、ウラジロガシ。
独特の白っぽい落葉で、下をみれば存在がわかります。
展葉中のこがね色の新葉が林を明るく照らしていました。
あまり多くはなかったものの、アカガシもありました。
ヤブツバキも優占種のひとつ。東北の山にいることを忘れそうな林相です。
落葉広葉樹で、上層で特に目立ったのはケヤキでした。展葉したばかりですが、葉の食害が多い印象でした。
エノキ。
イヌブナも優占種のひとつでした。
この樹種の特徴である萌芽更新もよく見られました。
イヌシデも、上層に達する個体を含め、存在感がありました。
クマシデ。
アサダ。
イタヤカエデ。
イロハモミジも大径木がありました。
ハウチワカエデ。
そして、カエデ属で一番目立ったのはチドリノキ。とくに斜面の下部。
ミズキも、大径木がありました。
ハリギリ、ホオノキは、ときどき出現。
同じく、ウワミズザクラ、シナノキ。
下層。マンサク、ガマズミ。
サンショウ。
コクサギ、ムラサキシキブ。
ミツバウツギ。
ソヨゴ、シロダモ。
アオキ。色づいた果実が多く見られました。
林床の稚樹でもアオキは一番目立つ存在でした。
ツルアリドオシ。
ケヤキの稚樹も多く見られました。
ウラジロガシ。昨年の堅果は見当たらず、若い実生は多くありませんでした 。が、小径木の密度はかなり高く、更新しているようでした。
チドリノキ、ミズキ。
キハダ、サンショウ。
ミズナラ。林冠木にもあったのかもしれませんが、、、最後に1本、稚樹だけ見かけました。
モミの稚樹、若木は少なかった印象です。
2時間半ほどたのしんで、下山。里から山を振り返りました。
角田市高倉
くるまで20分ほど、角田市高倉の高蔵寺へ。一帯には公園もあり、とてもきれいに整備されていました。
スギの巨木に囲まれた高蔵寺の阿弥陀堂。1177年に奥州藤原氏によって建立されたのだそう。
スギの推定樹齢は800年。樹高35m、周囲長8.3m。
スギと並んで、カヤの巨木もありました。裏山にはカヤが群生する林もあると記載がありました。
境内に植栽されていたアコウ。
少し離れた、地区の旧小学校の校庭。推定樹齢150年、周囲長5mに達するセンダン。大切に守られていました。
白石市小原
くるまを西に走らせて、白石市小原へ。季節柄、車窓からずっとフジがきれいでした。川のほとりで。
集落にカヤの銘木が2本ありました。種子が小さいなどの特徴があるコツブガヤと、幹のねじれが左巻きになるヒダリマキガヤ。
白石川に沿って、七ヶ宿町との境にある材木岩。柱状節理の岸壁がそびえています。観光客で賑わっていました。
ここに来たのは、北限の自生地として知られ、国の天然記念物にも指定されている ヨコグラノキ(クロウメモドキ科)を見たかったため。案内板くらいは立っているかも、、、と思ってきたのですが、残念ながら公園では何の情報も得られませんでした。周辺の歩道をとにかく歩き回ってみました。
ケヤキ。
コナラ。
イタヤカエデ、チドリノキ。後者はすでに若い実がいっぱい。
ナツツバキ、アセビ。これらは、今日はじめて見かけました。
カツラ。全体的に、斗蔵山と比べて、はっきりと冷温帯の構成種が多く見られました。
オヒョウ、サワグルミ。
アサダ、アカシデ、クマシデ。
ウワミズザクラ、 ナナカマド。
ウラジロノキ、アズキナシ。
アオハダ
、クロモジ、ガマズミ。
虎岩展望台から見た七ヶ宿湖。結局、ここではヨコグラノキを見つけることはできませんでした。この地区内にはどの程度本数があるのでしょうか。崖地などに主に分布するようなので、歩道の周りでは見られないのかもしれません。
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自生地は見られなかったのですが、先ほどの小原地区に植栽されたものがあり、最後にそこを訪れました。傍らの石碑は、先ほど訪れた、コツブガヤ、ヒダリマキガヤを見つけた地元の植物学者、斎藤四郎治の功績を顕彰するもの。ヨコグラノキの自生地もこの方の発見なのだそうです。
人通りも少ない旧道のわきに、ひっそりと佇んでいました。和名の由来は、牧野富太郎が、出生地・高知県の横倉山で発見したことに因んでいます。その後、西日本から朝鮮半島の崖地や石灰岩地で分布が報告されていますが、関東・東北ではここにしか自生地がないようで、かなりの隔離分布と言えます。
若葉が開いたところ。出会えて何よりでした。